これまで、「不妊は女性側に問題がある」という目で見られることが少なくありませんでした。
そのことにより、嫌な思いをされた人も多いのではないでしょうか。
しかし、さまざまな研究によって、不妊の原因のすべてが女性にあるのではなく、「男性にもさまざまな原因がある」ことがわかってきました。まずは「男性が原因になっているケース」と、その「検査・治療方法」について知ることから始めましょう。
男性が原因の不妊は大きく分けると3つ
男性が不妊の原因になっている場合、「精子の異常」「精子の通路障害」「性交障害」の3つが該当することがほとんどです。
精子の異常
精子に何らかの異常があって、受精しにくいことが考えられます。「精子の数が極端に少ない」「精子の運動率が低い(元気がない)ため卵子までたどり着けない」「精子の奇形率が高い」などの異常が挙げられます。
一般的に、1度の射精で放出される精子の数は1~4億個といわれていますが、この中で卵子と結合できるのはひとつだけです。そのほかの精子は、子宮へ到達するまえに99%が死滅し、子宮内に入れるのは数10万個以下となります。さらに、卵子の周囲に到達できるのは数100個以下です。
これだけの数がいても、卵子の周囲までたどり着けるのは元気で正常なほんの一握りの精子ですから、精子にとって「全体の質」が非常に大切なことがわかります。そして、精子に異常があるために起こる不妊症には以下のようなものがあります。
- 乏精子症:精液1ml中の精子の数が3,900万個未満
- 無精子症:まったく精子が生成されない
- 精子無力症:射精後2時間以内の精子の運動率が40%未満
- 精子死滅症:精子に受精能力がまったくない、もしくは死んでいる
- 精子過剰症:精子の数が正常の2倍以上で、精子同士が固まったりくっついたりする
- 奇形精子症:正常な精子が40%未満
これらの精子異常を引き起こす原因は、先天的な染色体の異常である「クラインフェルター症候群」、睾丸が陰嚢に下りてこない「停留睾丸」、おたふく風邪が引き起こす「睾丸炎」のほか、過度の飲酒や喫煙などが挙げられます。
精路通過障害
精子の通り道となる精管や尿道が詰まったり狭くなったりすることで、精子の射出に影響をきたしてしまう状態です。結核菌や淋菌などの炎症によるものと、先天的な尿道の細さが原因の場合があります。
通路障害があると精液の多くが膀胱へ逆流し、尿に混ざった状態で体外に排出される「逆行性射精」という症状を引き起こします。この逆行性射精は、糖尿病や前立腺の手術後にも見られる症状です。
性交障害
精子や精子の通路に問題がなくても、性交ができないことによる不妊もあります。「勃起不全(ED)」や「早漏」「遅漏」も、性交障害の一種です。
性交障害を引き起こすのは、性器の奇形や発育不全、外傷によるもののほか、ストレスなどの精神的な原因も考えられます。勃起は自律神経の副交感神経が司っているため、交感神経が優位となる緊張状態では委縮してしまいます。
ストレスや睡眠不足による自律神経の乱れから、勃起不全が引き起こされることもあるのです。生活習慣や食事の見直しも大切ですが、パートナーに理解してもらい、時間をかけて治療していく必要があるでしょう。
男性が不妊原因の場合は、検査しないとわからないことも多い
不妊治療はパートナーといっしょに受けることが大切ですが、まずは不妊の原因を調べる「不妊検査」を受けてみましょう。
男性の不妊検査は、泌尿器科で受けることができます。不妊専門の婦人科でパートナーといっしょに受けることも可能ですが、検査の正確さや精度からいえば、泌尿器科で受けたほうがいいでしょう。
検査内容の基本となるのは「精液検査」です。2~3日ほど禁欲期間を置いて、クリニックの採精室か自宅で精子を採取し、精液の量、精子濃度、総精子数、精子運動率、奇形率を測定します。
これらの数値はWHO(世界保健機関)によって基準値が定められており、この基準値と照らし合わせて「妊娠させる力」を評価します。検査費用は、保険適用内であれば初診料のほかに1,000円程度です。体調によって結果が異なることもあるため、検査は2~3回受ける必要があります。
精液以外にも、精巣の大きさや硬さの確認、腫れや痛みの有無を調べる触診、エコーを使う容積の測定や精路の通過性チェックなどが行われます。また、採血でホルモンの分泌異常を調べることも大切です。男性が不妊の原因である場合、これらを総合した診断結果によって明らかになります。
男性が原因の不妊の治療は、投薬や外科的なものまでさまざま
男性に不妊の原因があった場合、症状に応じて投薬治療や外科的治療を行います。性機能障害の場合には、勃起不全の治療薬である「PDE-5阻害薬」や、精液が逆流するのを防ぐ「抗うつ薬」が処方されるケースが多いようです。投薬で効果が上がらない場合は、「人工授精」という手段もあります。
また、高度の通路障害や無精子の場合は、「精路再建手術」や「体外受精」という方法が取られます。希望があれば、配偶者以外の精子を用いた人工授精も行われます。
外的要因だけでなく、生活習慣・食習慣の見直しも不妊の改善につながる
男性が原因の不妊を改善するためには、病院での治療以外にも、生活習慣や食習慣の見直しが必要となります。
自律神経の乱れを改善するには、毎日決まった時間に質の良い睡眠を取ること、軽い運動を行うこと、そして栄養バランスの取れた食事が大切です。EDの原因のひとつでもあるストレス解消にも、睡眠や運動は効果的です。また、タバコやお酒は精子を減少、劣化させてしまうといわれています。喫煙や飲酒の習慣がある場合、頻度を低くするなど、少しずつやめる方向で努力しましょう。
男性が原因になっている場合の不妊の改善に効果的といわれる食べ物は、生殖能力を高める作用や強壮作用があるといわれる「ムチン」と「亜鉛」です。ムチンは、根菜類、ネギ類、納豆・オクラなどのネバネバした食品に含まれています。亜鉛は、しょうが・ごま・牡蠣・アサリ・海老・カニなどに多く含まれていますので、これらをメニューに取り入れるようにしましょう。
また、多忙で食事をする時間がない人は、滋養強壮や栄養補助のサプリメントを摂取するなどして、足りない栄養素を補うことも考えましょう。実際、男性不妊外来に通院している患者の多くは、さまざまなサプリメントを服用しています。そして、その中でも「マカ」が人気になっているそうです。
マカは、アンデスの高地に生息する高山植物で、昔から現地の人々の貴重な栄養源とされてきました。その有用性は、世界中で研究されているほどです。サプリメントを選ぶ際には、マカの生産地や種類もしっかり確認するようにしましょう。